具体的には,それぞれのメンバーか自分の研究テ一マを持って活動し,毎月1 回程度開かれるミーティングで報告しあい,意見交換などを行なっている(写真 1)。環境情報学部のある湘南藤沢キヤンパス(SFC)には,車椅子を利用す る学生や視覚障害を持つ学生も通っている。その人たちは,大学という生活空間 で車椅子のアクセシビリティを考えたり,視覚障害者が必要とするパソコンのイン 夕一フェイスを考えたりする上で,非常に強力なメンバーだ。
以前本コーナで紹介したことのあるWWWによる情報提供もそうした研究活 動の環である。世界に向けて情報発信が可能なインターネットを使うことで, 分かりやすい情報提供の在り方を検討し,また,障害者以外の人にもヒューマンイ ンターフェイスに関心を持ってもらうことを目的としている。
写真1: ある日の研究会のミーティングで, Macintoshで動作する陣害者用ソフトを見入るメンバー。
(1)「視覚障書者用福祉機器の手引き」 日本盲人社会福祉施設協議会盲人用具部会が発行する手引き書より,点字機器 などの情報を紹介している(画面2)。
(2)「情報処理機器アクセシビリティ指針」 日本電子工業振興協会が発行している「情報機器やさしさガイドライン」とい うパンフレットの内容を転載。 (3)「身体障害者(肢体不自由)か利用可能なパソコン入力装置」 メンバーの1人である伊藤英一さん(神奈川りハビリテーションセンター)に よるテータをWWW用に見やすくして,検索機能を付けたもの。
(4)「慶應SFC車椅子マップ」 学内を5つの工リアに分け,スロープ,エレベータ,トイレなどの位置を表示し たマップ(画面3)。
画面1〜3:: アクセス研ホームページ、福祉機器の一覧、および車椅子マップ。
-- などの情報が提供されている。また,メンバーの1人で全盲の中根雅文さんによ るページがあり,昔声合成装置と点字デイスプレイを用いたパソコン(MS-DOS) の利用方法についてまとめた文章や,視覚障害関連の情報を読むことができる。 ちなみに,このページ自体のインターフェイスを改良したり,継続して情報提 供していくためのアンケートが用意されているのだが答えてくれるのは日本人 より外国人(英語)のほうか多いそうである。「英語の画面を作ってほしいとい う要望か多いんです。日本の人も気軽にメッセージを残してくれればいいんです が」と安村教授は苦笑する。
このほか,現在学生のメンバーが取り組んでいるテーマとしては,「身代わり ロボットの作成」や「X-Winodw(ワークステーション)での視覚障害者支援 システム」,「ワークステーションとピテオを連動させた手話学習シスアム」,「車 椅子で動きやすい大学の環境を考える」などがある。身代わりロボットというの は,たとえば車椅子手利用者が自動車を運転していてちよっと降りて何かをしたい とき,わざわざ車椅子を取り出さなくてもすむ方法はないかと,ラジコンに力メ ラを載せてリモート操作する装置を作っているのである。
また,視覚障害者支援システムでは機能の1つとして,MIDI音源を使って 力一ソル位置や付近のスクリーン情報を音の変化で表現しようと試みている。 SFCでは,実際の講義の中でワークステーションやX端末が活用されていて, 学生全員がコンピュータを使えなければならない。ある憲昧では先進的な大学で ある。そういう場所で,学生らしい発想によるアクセシビリティの研究がなされ ているのは,将来的な財産としても歓迎すべきことだと思う。
研究会には,リハビリテーショシセン夕一のエンジニアやメー力一の人も参加 している。各種の研究機関と情報交換するなど,オープンな雰囲気ができている のである。インタフェイスについて安村教授は,「視覚や手指の運動だけでなく, 聴覚や発声,体の動き,触覚など人間の多様な感覚を利用し,その情報形態 を変換する(たとえば視覚j情報を音声や点字に変換する)ことで,よりアクセス しやすい環境を追求したい」と目う。そういう観点から見ると,Windowsな どのGUI環境は「まだまだ改良の余地ばかり」だ。今後も,研究会としているいろ いろな試行錯誤に期待したい。